新刊発売のご案内 - 「貧困とはなにか」(明石書店)

去年の秋から年末にかけて1冊の本を翻訳していた。ようやく出版、発売になる。

www.akashi.co.jp

新版 貧困とはなにか - 株式会社 明石書店

https://www.amazon.co.jp/dp/4750356484

この翻訳に関するネタは、何度かこのブログでも取り上げてきた。

mazmot.hatenablog.com

mazmot.hatenablog.com

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なので、いまさら書くこともないようなものだけれど、やっぱりモノが手許に届くと嬉しいので、改めてこの記事を書いている。なにせ専門書だから、「ぜひ読んでください」と宣伝する意味もあんまりない。買う人は宣伝なんかなくても買うだろうし、そうでない人は買わない。業界の人なんか、こっちが言わなくても知ってるだろうし。

それでも宣伝めいたことを書くとするなら、この本、原書が改訂されたものに合わせての改訂版なのだが、だいぶと読みやすくなった。手前味噌の翻訳の上手い下手ではない。旧版の翻訳者も、それなりにいい仕事をしている。もちろん不適切な訳が皆無だったわけではない。旧版では読み取れなかった意味が改訂版で明らかになって、「ああ、ここはこういう意味だったんだよね」となった箇所もある。明らかな読み違えもなくはなかった。それでも、そういった不適切さはどんな翻訳でも発生するものだ。私だって何十年も前の翻訳の誤りに今頃になって気づくことだってある。それでもどうにかなってきたのが、翻訳文化の上に多くのものを受け入れてきた日本社会だ。目くじらを立てるほどのことではない。

読みやすくなったのは、旧版が出てからの12年間でさまざまな概念が整理されてきたからだ。これは不適切な翻訳語を適切なものに置き換えていくことにつながった。たとえば旧版ではcapabilityを「潜在能力」と訳していたのだけれど、これは当時、それが「定訳」であったからだ。けれど、翻訳者の立場から読むとこれが誤訳といっていいぐらいのマズい訳だということはすぐにわかる。細かなことを言い出したらいろいろあるけれど、簡単にいうならcapabilityは「潜在」している必要がない。潜在していようが顕在化していようが、どちらであってもcapabilityだ。そして、この12年間で「潜在能力」のマズさが社会学の業界内でも明らかになってきた。なので、翻訳語が改められ、読みやすくなった。そんな訳語がいくつもある。だから読んでいて「?」となることがだいぶと減った。そこに貢献できたのは素直に嬉しい。

 

前回、やはり同じ監訳者で「子どもの貧困とライフチャンス」という本を訳したときには、長い長い感想文を書いた。

www.kamogawa.co.jp

今回も同じように感想文を書いてもいいのだけれど、本の性格がちがうので、安直にまとめられない。なので、今回は、翻訳中に拾った主に訳語の選択に関するネタをいくつか書いていこうかと思う。「主義」に関しては他のネタとの絡みがあったので先に書いたが、ほかにもいろいろと勉強になったことがある。そういうのをメモしておけたらなと思う。まあ、時間と根性が許せば、だけれど。

 

発売までにはまだ少し時間があるのでいまからだと「予約注文」になる。それでもよろしければぜひ。いや、そんなことを書いても意味ないと自分で書いたばかりなのにな。