社会とか、文化とか

シチズンシップについてのわかりにくい話

「シチズンシップについてのわかりやすい話」みたいな解説がどこかにあったら、ぜひ読みたいと思っていた。というのも(あんまりはっきり書くと不都合もあるのでやや事実を枉げて書くのだけれど)大学を受験する高3生から「世界市民としてあなたはどう生きる…

新刊発売のご案内 - 「貧困とはなにか」(明石書店)

去年の秋から年末にかけて1冊の本を翻訳していた。ようやく出版、発売になる。 www.akashi.co.jp 新版 貧困とはなにか - 株式会社 明石書店 https://www.amazon.co.jp/dp/4750356484 この翻訳に関するネタは、何度かこのブログでも取り上げてきた。 mazmot.h…

「主義」という語のややこしさについて - まとまらない雑感

-ismと「主義」 量としてはたいしたことはなくなったとはいえ、いまだに翻訳の仕事をあたえてくれるクライアントがいる。AIの時代にこれはなかなかありがたいことだ。いずれはくると予測していた「翻訳はマシンの方が使いやすい」時代が、現に到来しつつある…

書くだけなら、犯罪の手口を書いても罪には問えない(ふつうは)

死んだ祖母が私が子どものころに「世のなかに覚えておいてわるいことは何もないよ」と言っていたのを、いまでもその口調とともに思い出す。「泥棒だけは覚えたらあかん」とも言っていたのだが、この「泥棒を覚える」は知識の類ではなく、慣用表現で「悪事を…

「いつ、だれが」に関心がある自分と、ない自分

辻邦生の「安土往還記」を少し前に久しぶりに読み返した。中学生か高校生の頃に何度も読んで「スゲェわ」と感心して以来、十年ぐらいおきに読み返しているんじゃないかと思う。とりあえず手堅く楽しめる1冊として、自分の中ではリリーフエース的な位置づけと…

「貧困」という言葉を誤解していたらしい

「実家が太い」と言ってしまっていいと思うのだが、私は貧しさと無縁な生活を送ってきた。無縁というのもちょっとちがう。いろいろな局面で貧しさと隣り合わせになりながら、そこにつきものの苦しみから本質的に遠いところにいた。事業がうまくいかなくなっ…

なぜ「全部譲ってようやく対等」なのか

この記事 anond.hatelabo.jp 結婚・同居すんなら「絶対に譲れないこと以外は相手の希望に沿うように譲れ。それも無言でそうしろ」 に対してつけたブックマーク・コメント 結婚・同居すんなら「絶対に譲れないこと以外は相手の希望に沿うように譲れ。それも無…

多様性と宗教と

私の宗教に関するスタンスは割とはっきりしている。個人的に敬虔でありたいと願っているが、それは他者と共有するものではない。したがって、共有することを前提として人が集まる組織宗教に属することはないし、そういったものとは距離をおきたい。このあた…

宗教に関する断片的な思い出 - 1990年代の地方都市と農村で

私はノンポリであると同じくらいに非宗教的だ。ただ、これにかんしては個人的に引いている一線がある。「宗教」というものを私は2つに分けてとらえている。まずひとつは個人的な非合理な思考だ。もちろん非合理的思考のすべてが宗教であると考えているわけで…

目標、努力、成功、成長について(その2) - 同じ言葉を使っていても

前回、「目標、努力、成功、成長について」という記事を書いた。 mazmot.hatenablog.com これはもともと、はてなを代表するブロガーのひとり、シロクマ先生のブログに感じた違和感が出発点になっている。 p-shirokuma.hatenadiary.com p-shirokuma.hatenadia…

目標、努力、成功、成長について - 流れ去る時間と円環する時間

家庭教師として生徒を教え始めたときに、最初に確認するのは「なんのために勉強するんですか」ということだ。もともと私は勉強が大嫌いだし(ちなみにざっと9割の生徒が「嫌いだ」と答えているからここでは多数派だと思う)、嫌いなことをあえてするのであれ…

歴史の本を書いた - 身の程知らずではあっても

家庭教師は基本的にナンデモ屋だから、生徒が必要とするものはなんでも扱う。小学校の算数から高校数学まで教えるし、国語だったら平仮名の練習から漢文の解釈まで、英語だったらABCから英検1級まで、どんな教科でもどんな難易度でもやる。もちろん数学Ⅲとか…

それは「予言の自己成就」ではない - 類似の構造ではあっても

前回の記事 mazmot.hatenablog.com について、早速にブックマークコメントを頂いた。こういうことがあるからブログはやめられない。ありがたいことだ。 指標が勝手に自己実現してしまう現象について知りたい - 天国と地獄の間の、少し地獄寄りにて 社会学的…

指標が勝手に自己実現してしまう現象について知りたい

人間は外界の様子を知るために五感を備えているのだけれど、これが案外とアテにならない。アテにならないとはいえそれを使わなければ情報が得られないのだから、なるべくそのあやふやさをなくすために指標が用いられることになる。温かい寒いの感覚は前日の…

平成の米騒動について

トンガの火山大爆発は、ほんとにすさまじい。被害の様子もまだよくわからないというのが、不気味だ。現地の人々の無事を祈るとして、ここにきて何やら話題になっているのがいわゆる平成の米騒動、1993年の冷害による不作に端を発した米不足だ。なぜなら、こ…

定義されない話には気をつけよう - 解決されない「問題解決能力」

「問題解決」は、家庭教師のような仕事をしていると避けて通れない概念だ。なぜなら、家庭教師の仕事は公教育の補完であると期待されているのだし、その公教育の基準を決めた学習指導要領には、「問題解決」の言葉が頻出する。そういう感覚でこの記事を読ん…

「有機農業」についての7つのよくある勘違い

はじめに 現実がどうかとかいうことはさておいて、理念として有機農業に一定の価値があることはいまさらどうこういう必要のないことだと思っていた。小学校の教科書にさえ有機農業や無農薬、省農薬の概念が記載されるようになって久しい。世の中の全員が認め…

論破するのは議論ではない、というあたりまえの話

ものすごくレベルの低い話をするのだけれど、世の中、議論することの意味を取り違えている人があまりに多いように思う。議論は、議論への参加者を説き伏せるために行うのではない。議論は、よりよい解決策を発見するために行うものだ。これは議論の大原則だ…

自分でない何かを求めるのは群れ生活者の宿命かもしれない

Tracy Chapmanというシンガー・ソングライターがいて、Talkin' 'bout a Revolutionとか、やたらと格好のいい曲を歌っているのだけれど、なんと言っても出世作のFast Carがすばらしい。アコースティックのギターリフ(けっこうむずかしい)にのせて最小限のバ…

価値観から逃れられないからこそ、いったんそこを保留にすることが重要になるという話 - 「良い」「悪い」で見えないもの

何の気なしに書いたブコメに星がいっぱいついて慌てることがある。いや、私の意見に何かを感じてくれた人が多いのは単純に嬉しい。一生懸命考えて書いたブコメだと、特に嬉しい。慌てるのは、何の気なしに書いたものが思わず伸びるときだ。詰めて書いてない…

決定プロセスと実行プロセスを同じ組織に委任してはならない

成長性の高い企業の特徴のひとつは、意思決定の権限が末端に委譲されていることだ。本当かどうかは知らないが、そういう指摘をときどき目にする。スピード感が何より重要な時代にあって、上層部の許可がなければ動けない企業は遅れをとる。現場の動きをいち…

なぜ「昔話」のオリジナル版をあまり目にしないのか

こんな増田記事を見てブコメを書こうと思ったけど、長くなるのでこちらで。 b.hatena.ne.jp [B!] 昔話はなぜ文語じゃないんだろう 「昔話」と一口に言っても、中身はいろいろある。柳田国男を先駆として各地で採取されてきた「民話」が量からいっても質から…

無敵の人になる方法 - はみ出し者の組織における役割

家庭教師を派遣する小さな会社に雇われて子どもに教え始めてからちょうど8年になる。初めての生徒をもったのが2013年の2月だった。いまでも印象に残っている。あの頃は、私もまるで素人で、生徒にずいぶん迷惑もかけた。私だけじゃない。会社もいまよりもず…

生きにくさは社会的な文脈で変わる - 「忘れ物」は特異な概念かも

前回、忘れ物のことを書いたら、かなり多くのひとが読んでくれたようだ。特に私同様に忘れ物で苦労したひとからのコメントが多かったのは心強かった。それと同時に、私から見たら筋違いと思われるようなコメントも、それなりにいろいろ考えさせてくれるヒン…

なぜ「忘れ物を叱る」のが無意味なのか

忘れ物をしても叱らない教育をしている学校があるとかいうTogetter記事を見て、「そりゃそうだ」と思ったのだが、そこについてるブコメ群のかなりの部分を占める意見が否定的なのに驚いた。いや、ほんとに驚いた。 b.hatena.ne.jp もちろん、「叱ってもいい…

「手伝い」の概念は変化してきたのか? -  生業と家事のあいだ

「家のことを子どもが手伝うみたいな言い方をするようになったのって、いつ頃ですかね」。古い友だちにコーヒーをご馳走になりながら話していたときのことだ。田舎で百姓をやりながら大工としてそこそこに名前も売れてきたその友人とは、知り合ってもう四半…

たねをとるのは自然権 - 種苗法に寄せて

種苗法改正を巡って、いろいろな人の声を聞くようになった。私は以前、自家採種に関する本の編集に携わったこともあって、この方面には決して無関心ではない。けれど、法制度に関してはその本の著者グループの間でさえ温度差があり、私のようなシロウトがあ…

変わってこその文化、受け継いでこその文化

地味に凄いWebsiteがあった。 chuseimonjo.net 日本の中世文書 数はまだ多くないのだが、古文書の画像が公開されている。それだけならまあ珍しくもない。凄いのは、それに音読音声をつけてくれていること。古文書の素養などまったくない私でも、音声を聞きな…

なぜ若者に説教してしまうのか - 老害は避けられない運命

17歳の若い子を友人の家に連れて行った。この春まで家庭教師として教えていた生徒である。推薦枠を利用しての大学進学という方向性がほぼ確定したので、これ以上の受験準備も必要なかろうということで指導を終了した生徒だ。私の中では片付いた生徒だった。…

社会の原理と個人の原理が異なることについて - 歴史と個人と

在日韓国・朝鮮人のことについて少し書くつもりなのだが、私は決してその方面に明るくはない。むしろ、私より上の世代の常識を基準にしていえば無知な部類に入るのだと思う。それでもその私の理解を書こうというのは、そういった不正確で誤りの多い理解でさ…