教育とか、英語とか

「主義」という語のややこしさについて - まとまらない雑感

-ismと「主義」 量としてはたいしたことはなくなったとはいえ、いまだに翻訳の仕事をあたえてくれるクライアントがいる。AIの時代にこれはなかなかありがたいことだ。いずれはくると予測していた「翻訳はマシンの方が使いやすい」時代が、現に到来しつつある…

「正しい勉強の仕方」なんてない - 幻は追いかけないこと

「勉強のやり方を教えてほしい」という需要が多いことに、家庭教師をやっていると気がつく。そこに至る状況はだいたい想像できる。 「なんで勉強しないの」「やろうと思ってるんだけど」「じゃあ、やりなさい」「何からやったらいいのかわからない」「まず宿…

外国大学への進学を勧める理由とその対応 - 主に英語に関しての話

私立高校なんかでよくプログラムに組み込まれてる短期留学などの語学留学を除けば私の生徒で外国の学校へ進んだ人はいまのところいないのだけれど、遠からず出てきても不思議はないと思っている。先日も、体験授業だけ受けて結局契約には至らなかった医学部…

少し、中学受験指導の要領がつかめてきた

中学受験に関してはこのブログでも再々書いているのだけれど、ぶっちゃけていえば、私自身は中学受験指導の経験がそれほど豊富とはいえない。家庭教師業、いちばんお客さんが多いのは高校受験だし、中学受験は手数ばかりかかる。高校受験のノウハウは割と確…

DeepLを業務に使った

翻訳エンジンのDeepLは、登場したときから「あ、これで時代は変わったな」と思わせてくれるものだった。ただ、実際の仕事に使おうとは思わなかった。仕事というのは翻訳仕事だ。業務としてお金をもらう仕事では、いくら優れていても使う気になれない。クライ…

オンライン家庭教師を2年以上続けたので、そのノウハウを公開する

前史(ここは飛ばしてOK) あまり気が進まないままに家庭教師をはじめて10年以上になる。そこら辺の事情は別で書いたので、繰り返さない。やっているうちにいろいろ考えて、「やっぱりこれは自分の仕事なんだろうなあ」と思うようになっていった。そこにすべ…

第二次世界大戦中の英語教育について(メモ)

教育学業界のことは私にとっては謎だ。家庭教師という仕事をしている以上、それに関する学問に興味はあるのだけれど、入門書を眺めてみてもどうにも解せない。だから、アカデミックな教育の話になると私にはいろいろととんでもない誤解があるかもしれない。…

アンラッキーと貧困と

「子どもの貧困とライフチャンス」の各章の紹介、というよりも読書感想文をここまで書きつづってきた。監訳者のあとがきをのぞけば、これですべてである。あとがきについては、ふれる必要はないだろう。あとがきだ。このシリーズは、これでおわりにしよう。…

提言を価値あるものにするために

「子どもの貧困とライフチャンス」の第10章〜12章は、ここまでのまとめということになっている。10章は各章で述べられてきた事実、すなわち所得、家族の構造、幼児教育、学校教育、健康、健康、メンタル、住居、就労の問題を有機的にまとめ上げている。11章…

金がないのは、かせげないからだ

かせぐにおいつく貧乏なし、とはよくいったものだが、最近ではどうも貧乏の足がはやくなったのか、ときどきおいつかれてしまう。経済の基礎代謝があがっているからだ。過去30年ばかりも賃金はあがっていないのに、固定的に出ていく金額はジリジリとあがって…

住む場所の問題 - 生きることの基礎として

長く生きてきたおかげで、いろんな場所に住んできた。豪邸からアパートまで、ひととおりの暮らしはわかる。いちばんせまかったのは公称6畳、天井を見上げたらベニヤ板が3枚半という便所共用の中野のアパートだった。いちばん惨めったらしかったのは、田んぼ…

心が不調でチャンスがつかめるか

「子どもの貧困とライフチャンス」の第7章は、第6章にひきつづいて健康の問題だ。そのなかでもとくに、メンタルヘルスにかんする問題をあつかっている。貧困下に暮らす子どもたちはメンタルをやられる。それがライフチャンスに影響しないわけはないだろう。…

健康は金では買えないが、金がなければ健康は損なわれる、という話

「子どもの貧困とライフチャンス」の第6章は、「ライフチャンスには健康が必須条件だ。健康のためにはそれをささえる経済資源が必須だ。つまり、貧困対策をしなければならない」という理屈で論が展開される。これは2010年に出された報告書、通称マーモット・…

学校というやっかいな存在

私は学校がきらいだ。自分自身の経験として、すきではない。学校の唯一の魅力は友だちとあえることであって、それ以上ではない。授業のすべてがつまらなかったかといえばさすがにそこまでではなく、たまにおもしろい授業をしてくれる教師もいた。けれど、そ…

幼児教育は有効なのか? - 「教育」という意味ではなく

「子どもの貧困とライフチャンス」という本の第4章は、保育・幼児教育と子どものライフチャンスについて書かれてある。私は近所の保育園に縁あって年に何度かお邪魔するぐらいの関係は小さな子どもたちとつないでいる。なので、この章にはとくに関心があった…

「家庭崩壊」が原因か? - 子どもの「チャンス」をそこなわないために

「子どもの貧困とライフチャンス」の第3章は、「家族」に対する考えかた、価値観の相違について改めて考えさせてくれる。というのも、日本ではたとえば夫婦別姓問題をつうじて、「家族の絆」を主張する保守政治家の存在が浮き彫りになり、その一方で同性カッ…

なにはなくとも銭と金 - 低所得はライフチャンスをそこなう

「子どもの貧困とライフチャンス」の第2章は、お金の問題だ。それは冒頭にはっきりと書いてある。「子どものライフチャンスを改善することをねらった戦略を立てるのであれば……、適切な世帯所得をあらゆる家族に保障できるような計画を含めることが必要になる…

「ライフチャンス」って?

最初、この「子どもの貧困とライフチャンス」の原本を受けとったとき、「なんじゃいな、これは」とおもった。というのも、門外漢の私にとってlifechanceといえば生存機会であり、すなわちそれは生きるか死ぬかの問題であるようにおもえたからだ。「そんな御…

「子どもの貧困とライフチャンス」が出ます

久しぶりに、翻訳者としてのクレジットがはいった本が出る。英語の出版で謝辞を入れてもらったのはここ10年で2度ほどあるけれど、それは翻訳者としてではなくそのコーディネイトをしたという意味でしかない。翻訳者として名前を出してもらえるのは15年ぶりぐ…

宿題を自明とする教育方法は正しいのだろうか - 「宿題論」はなかなか進まない

「宿題論」という名前のファイルがデスクトップに置いてある。プロパティを確認すると書き始めたのはちょうど2年ほどまえになる。プロットも考え、初めの方を原稿用紙換算で10枚ほど書いたところで、止まっている。書き始め時点ではそういう構想でもなかった…

「宿題論」を書く前に - ある生存者バイアス

子どものころから宿題ができない。いまだに宿題となると、とたんに進まなくなる。実は、数年前から書こうとして書けていない文がある。自分にとっての宿題なのだけれど、これがなかなか仕上がらない。忘れたわけではない。デスクトップの目につくところにず…

自尊心がなければやってらんない、という話 - The Greatest Love of All

家庭教師やってると、失敗ばかりでときにはイヤになる。生徒とのセッションは基本的には楽しい時間だ。けれど、それが結果としてどうなのかというと、たとえば「やっぱりここ、まちがえるかよ」とか、「なんでテストの点数が伸びないんだよ」とか、客観的に…

中学生用の英語教材自作の話 - 一例報告

英語教育の理想と現実 家庭教師として中学生に英語を教えるのは、けっこう悩ましい。というのも、理想と現実の間の距離があまりにも離れすぎているからだ。 究極の理想としては、言葉はその言葉が使われている場所で生まれ育った人々が覚えるように覚えてい…

中学受験は、やっぱりおかしい - 基礎教育が目指すものと評価基準の乖離

「成長」というとらえどころのないもの 教育が目指すものは、なにはさておき、人間の成長である。人間の成長を支える介入を教育とよぶ、と定義しても差し支えないほどだ。原理的に、これに異を唱える人は多くないだろう。多数の人が教育を人間の権利とし、そ…

教師が「叱る」ことは原理的に可能なのだろうか?

家庭教師をやっていて、生徒を叱ったことがない。これはなにも私の性格がどうとかいうことじゃなく、原理的に家庭教師は生徒を叱る立場にないからだ。もっとも、生徒の方で勝手に「叱られた」と受け取る場合があるので、これはなんとかしなければいけないと…

「体操服の下に下着を着ない」は、変態教師の妄言とは、ちょっとちがう

ブラック校則との関係で「体操服の下に肌着を着てはいけない」というルールが少し前からときどき取り上げられる。私は着衣や髪型などに関してとやかくいうのは人間としてどうなのと思うほうだから、こういうルールが学校にあるのはおかしいと思っている。そ…

地頭の良さと受験勉強と

学習塾的な教育が「本質的に」役に立ってるのかという増田(Anonymous diary)記事があった。 anond.hatelabo.jp SAPIXみたいなのって本質的に役に立ってんの? 老子によればおよそこの世の中無用のものはないのであって、そりゃ、この世に存在するものであ…

個別の優秀さは全体がクソであることを救わない - 神戸にもいい教師はいる

神戸市北区の小学校教師が「忘れ物」に対して理不尽な対応をして処分を受けたことが報道された。以前のエントリで「忘れ物を叱っても意味はない」みたいなことを書いたばかりということもあって、暗澹たる気持ちになった。 www.asahi.com 消しゴム忘れた児童…

翻訳の思い出

自分名義の翻訳書が何冊かあるので「翻訳者」を名乗ってもバチは当たらないと思うのだけれど、経済的な寄与でいったら私の生涯の収入に翻訳からの印税や翻訳料が占める割合はそれほど多くない。いろいろな半端仕事を継ぎ接ぎしながら生きてきた、そのパッチ…

中学受験は、そろそろ根本的に変わったほうがいい

役に立ってない中学受験勉強 中学受験はおよそ害悪だ。私がそう思う理由は単純だ。それが子どもたちの役に立っていないからだ。中学受験制度そのものは、それは何らかの役に立っているのかもしれない。少なくともそれを実施する私立中学校にとっては、メリッ…