「太陽光発電の拡大は民主党政権のせい」という事実誤認 - 時系列は正しく見よう

私はもう10年ぐらい前になるけれど、非正規雇用の専門職(という言い方がものすごく奇妙なのだけれど)として太陽光発電関係の公的な仕事にごくわずかだけかかわっていたので、いまでも太陽光発電に絡んだニュースには注目している。そして、ブックマークしたら、他の人のコメントもながめている。参考になるものもあれば、見当違いだなあと思うものもある。たとえば、今日も、そういうのがあった。このニュース

 

mainichi.jp

についた、このコメント

再考エネルギー:全国で公害化する太陽光発電 出現した黒い山、田んぼは埋まった | 毎日新聞

何度でも言う 菅民主党政権時に雑に制度設計し補助金→経済の弱い地方で利権化→その後自民党政権下で補助金率必死に下げる

2021/06/27 10:34

b.hatena.ne.jp

なんかを見ると、「事実とちがうことを何度でも言われてもなあ」と思う。フィードインタリフの固定価格買取制度は、確かに民主党政権下で成立したものだけれど、それは、自民党政権下で既に方向性がきまっていたものを受け継いだに過ぎない。最初に「フィードインタリフをやる」と言ったのは、いまだに自民党の重鎮として君臨する二階氏であるらしい。

このあたりの流れは、私が細かく書いてもいいのだが、資料を調べるのもめんどうなので、ちょっと検索してパッと出てきた適当な論文のリンクを貼っておこう。

rikkyo.repo.nii.ac.jp「買い取り制度のケーススタディー : 日本」(飯田 哲也)

2011年の論文なので、その後のいろいろな推移のことは書かれていないが、逆に、再生可能エネルギーの系統接続がはじまった頃からのあれこれが詳しめに書いてある。ちなみに、飯田哲也氏は政治的には民主党寄りの人で、民主党政権時には政府関係の委員も務め、後には自民党候補の対立として山口県知事選挙に立候補していたと記憶している。私は彼が若いころに主催していた勉強会に何度か参加させてもらったことがあるので、まったく縁がないわけではない。とはいえ、深く知っているわけでもない。

ということで、細かい話はそっちを見てもらえればいいのだけれど、いくつか上記のブコメのどのあたりが事実に反しているのかをきちんとあげておこう。まず、「菅民主党政権時に雑に制度設計し」という部分は、歴史的経緯からいえば制度設計そのものは、自民党議員も多数参加した超党派の集まりで検討され、諸外国の動きや制度を参考に練り上げられたものだ。そして、固定価格買取制度は、「補助金」ではない。補助金は別に用意されていて、やがてすぐに廃止になった。さらに、「補助金率引き下げ」と書いてあるのは固定買取価格の引き下げなのだが、フィードインタリフはもともと固定買取価格を細かく引き下げていくことを前提にした制度だということだ。だから、「自民党が必死に引き下げ」というのは、そもそも制度をまったく理解していないことを白状しているようなものだと言わざるをえない。下げるのが前提の制度で下がったのを、政府の努力と思うのは、完全に事実に反する。

むしろ、私の見たところ(ここからの話にはエビデンスはないけれど)、自民党政府は固定買取価格を不当に高く維持する方に力を注いできた。このブログでも何度か書いていると思うが、もともと太陽光発電の設置費は、その後の売電収入でかつかつ元が取れる程度に調整すべきものである。ところが、いったん「太陽光は儲かる」みたいな神話を官民挙げてつくってしまったせいで、下げられなくなった。それは、下手に太陽光業界みたいなのを育成してしまったために、そこに利権が生まれてしまったからだ(上記ブコメで「利権」の部分だけはあながち間違いでもない)。そして、そういった利権絡みの陳情に弱いのは、(まあたぶん他の政党でも同じとは思うが)、自民党だ。太陽光発電の固定買取価格がなかなか下がらず、世間からの風当たりが一気に強まったのは、自民党のせいだと私は思っている。

 

ま、私の観測は、事実だとして争うつもりはない。ただ、その前に書いたように、歴史的経緯、制度の設計に関しては、上記に引用したブックマークコメントは完全に誤っている。そして、そういう誤りを含んだ議論はしょっちゅう見かける。なんなら、民主党系の議員でさえ、まちがえている。自分とこの政権が関わったことぐらいちゃんと覚えとけよとおもうのだが、政治家はすぐに忘れるものらしい。どうにかならんもんかなと、いつも思う。

 

ともかくも、現状の太陽光発電、けっして好ましいとはいえないことには10年前にごくわずかでもそこにかかわった人間として、非常に残念に思っている。特に、本来分散型でこそ力を発揮するはずの再生可能エネルギーを大規模化することに関しては、なぜあの時点で強く批判しなかったのかと、後悔している。もちろん、自分がセミナーで話すときなんかは、そのあたりも触れるようにはしていた。けれど、「メガソーラーでパネルの量産が加速したらパネルの価格が下がっていっそう太陽光の普及が進むじゃないか」という議論のまえに、「まあ、そうだよねえ」と、口をふさいでしまったのは事実だ。そのあたりの不明を、現在も恥じている。だが、そのあたりのことは、もっと長いべつの話になる。いつか、書ける日がくるかなあ。