ホメオパシーについてはいっぺん自分の考え方をきっちり書いとかなあかんなと思っていたんだが、それはそれでけっこう重い話になるので躊躇している。ただ、ここのところの炎上のしかたには、ちょっと「ちがうんじゃないの」というのを感じていた。そこにまた、火に油をそぐような記事があった。
で、細かいことを書く前に、とりあえず確認しておかなければいけないことがある、と感じた。まず、問題は「ホメオパシー」なのかどうか? これはこの記事からもはっきりしないし、FDAのステートメントも「調査中」と曖昧だし、英文のニュースでもそう。
それでも記事から推測できるのは、その本音はともかく、FDAが今回警告を発したのは、あくまで「幼児用の歯の生える時期のむずがりを抑えるタブレット及びジェル」という特定の製品群に対してだけであって、ホメオパシー製品一般に対してではないというもの。具体的にはCVSとHyland社の2社の特定製品。これら2社は既に先月にFDAからの指導を受けて該当する製品の出荷をやめている。そして、それ以外のホメオパシー製品に関しては、特に指導も受けていないし、製造もやめていない、ということらしい。
ここで重要なのは、いったいFDAは何を問題にしたのだろうかということ。それはある意味はっきりしていて、この製品による健康被害の報告があった、ということが問題。だが、その原因についてはまだ調査中であり、結論は出ていない。被害が広がる前にとにかくストップをかけるというのは、FDAとしては当然の対処。
しかし、だからといって、原因がホメオパシーだと断定するわけにはいかない。もしもその疑いがあるのであれば、FDAはホメオパシー関連製品の全般を禁止するだろう。だが、それはしていない。ということは、少なくともFDAは現段階、そういう因果論は考えていないはず。
私は怪しげな健康食品関連の業界にちょっとの間だけいたことがあるのでなんとなく推測がつくのだが、薬、あるいは薬を模した形態のタブレットやジェルは、外見上似たような製品がいくらでもつくれる。そして、たいていの場合、基材になるのは人畜無害な物質。それは食品あるいは食品添加物として認められているようなものばっかりだから、基本的には何らの影響を及ぼさない。プラセボ効果以外は。ただし、雑につくろうと思えばいくらでも雑につくれる。安くつくりますよというような下請け加工業者だっていくらでも世界にはあって、そういうところのラインでどういう基準の作業が行われているのかはかなり怪しい。
ホメオパシーは、そもそももとになる自然物質のトレースが検出されないほど希釈するのが原則だ。だから、化学的というか科学的には何の効果もない。そして、何の効果もないということは、何の害もない。何の害もない基材に何の効果もないホメオパシーのレメディを加えて作った製品に害が発生するわけはない。
となると、今回の問題で実際に発生した健康被害の発生源が該当の製品であるならば、2つの可能性が考えられる。ひとつには、製造工程の不備による意図しない物質の混入。もうひとつには、基材とレメディ以外の製品設計の問題。
製品が乳幼児向けのものであるということから、この製品には、一般的な基材以外に、甘味料や香料が用いられていた可能性が高い。そういう添加物の配合設計の問題で、健康被害が発生したというシナリオは、十分に想定できるような気がする。
さらにいうなら、これは添加物の設計というよりも、実際に効果のある何かを添加する設計だったのではないかという疑い。これも安直な健康食品系のタブレットにはよくあることなのだが、とにかく「効きそうなもの」は手当たりしだいに配合する。基材とレメディだけなら無害なものを、そこに「これも効くそうだから入れましょう」「これも赤ちゃんにはいいらしいよ」と次々に盛り込んでしまう。結果として、危ないものができる。そういうシナリオもまた、ありそうな話。
ともかくも、こういう問題は科学的な態度で臨むのがいちばん無難だ。だから、FDAがそういうんなら、該当のタブレットとジェルは使わないこと。ただ、たぶん日本で使ってる人はいない。同様の製品があったら気をつけるべきだろう(あるの? 私は知らない)。そして、それ以上でも以下でもない。
少なくとも現段階で、このニュースだけを根拠に、ホメオパシーを叩くべきではない。他のことで叩くのは、それぞれご自由に。あるいは、ホメオパシーではなく健康食品業界の体質を叩くのもいいかもしれない。ただ、もしもこれを根拠にホメオパシー全般を叩く人がいたら、その態度は科学的ではない。それだけはしっかりと認識しておいてほしいと思う。