機械の文章がむしろ標準となる時代に向けて

以前、機械翻訳の進化について翻訳者として感じることを記事に書いた。実のところ、この記事以前にも何度もあちこちで書いていることではある。時代が進むにつれて、アップデート的に書いているわけだ。

mazmot.hatenablog.com

そしてまた少し変化があったらしく、アップデートしておこうと思う。変化というのは、上記記事で取り上げたみらい翻訳がまた能力をあげたらしい。こんな記事に大量のブクマがついていたので気がついた。

forest.watch.impress.co.jp

細かい話はともかく、前回記事と同じ文章をこのエンジンで翻訳してみよう。まず原文は私のブログから、

上記の記事にあるように、多くの砲弾は戦場から帰還した軍人が記念として持ち帰り、奉納したものだろう。だが、平和な時代を数十年過ごし、神信心とも縁遠くなってしまった私達の感覚では、それでも「なぜ?」という疑問は晴らせない。たとえば、いかに元軍人とはいえ、武器をそう簡単に持ち出せるものでないことは明らかだ。一発何億円もするミサイルほどではないにせよ、砲弾はそれなりの有価物だ。演習での使用済み品や不良品その他の理由で不要とされたものであったとしても、下げ渡しにはおそらく相当に面倒な手続きが必要だっただろう。

そして、翻訳結果。

As mentioned above, many shells may have been brought back and dedicated by soldiers who returned from the battlefield as memorials. However, as we have lived in peaceful times for 10 years and have become estranged from divine piety, we cannot dispel the question of "Why?". It is clear, for example, that no former soldier can bring up a weapon so easily. Although not as expensive as a missile costing hundreds of millions of yen, artillery shells are a valuable asset. Even if it had been used in the practice, defective, or otherwise unneeded, it would probably have required a rather cumbersome process to deliver it.

うん。たしかに以前のバージョンよりは良くなっている。もちろん、不適切な訳語選択はみられる。「持ち出す」を文字通りにとれずに「取り上げる」「話題に出す」意味でbring upと訳したり、「下げ渡し」が「配達」の意味で訳されていたりと、まあそのままでは「誤訳」とされてしまうだろう。後半の文脈を見失っているのも、旧バージョン同様だ。

だが、考えようによっては、これは役に立つ。というのも、こうやって英文にすることで「ああ、この単語は理解しにくいのだなあ」とか「ああ、この構文はちょっとこみいってしまったのかなあ」ということが発見できるからだ。ネイティブ話者である日本人が日本語を書くときには、あまり構文を理論的に考えない。結果として、日本人にとっても解釈しにくい文章、いわゆる悪文を書いてしまうことにもなる。そういうことに気づかせてくれるレベルにまでは、このエンジンは進化している。

 

そして思う。「正しい日本語」は、これから機械が書く手本が標準になっていくのではないかと。なぜならそれは理論から決してはみ出さないからだ。AIがもう少し進化すれば、文脈がおかしいかどうかの判定もできるようになるだろう。そうなると、自分が正しい日本語を書いているかどうかのチェックを機械で行うことができる。

実際、英文ライティングでは、そういったWebサービスが存在する。これはけっこう役に立つ。

www.grammarly.com

そういうサービスが日本語でも遠からず標準になるだろう。そして、元編集者としての立場から言わせてもらえれば、これは非常に歓迎すべきことだ。悪文は編集の敵だ。そこをなんとかしてくれるだけで、どれだけ書籍編集は楽になることか。

 

しかし、その先に、より大きな難問が待ち構えている。いったい、機械に補助されて書く文章の、どこまでが自分なのだろうか。言葉とは、文章とは、そしてそれによって組み立てられる思考や、そこに表現される思想とは、いったい自分にとって何なのだろうか。

それは、いくらAIが進歩しても解決できない問題なのだろうな。なに、人間のやることは、どこまでいっても尽きることがない。