シアワセの容相

あしたはこっちだ

オールドメディアの勝利 - テレビをバカにしてはいけないという教訓

トランプ大統領を生んだ今回の大統領選挙、結果を正確に予測したのは結局はFacebookだけだったという分析記事がある。かなり詳細な考察。

medium.com

けっこう妥当な気がする。そして、こういう記事を見ると、「今回の選挙はやっぱりソーシャルメディアが勝敗を決したんだろうなあ」とも思えてくる。Twitterのフォロワー数ではトランプがヒラリーに1.2倍ほどの差をつけている。Facebookの「いいね!」の数も、トランプがヒラリーの2倍ある(このあたりの数字はTrump vs. Clinton: how the rivals rank on Twitter, Facebook, moreによる)。ソーシャルメディアの勝者が大統領選挙の勝者、という短絡的な見方をしてしまう。そうなのか?

ソーシャルメディアの影響力は、確かに大きい。しかし、本当にソーシャルメディアの力でトランプは勝利したのだろうか? 選挙後にああでもないこうでもないと考えてきて、私はどうもそういうことではないだろうと思いはじめた。というのも、そもそもトランプが大統領選挙に立候補する時点で既にTwitter上で400万人のフォロワーを抱えていた理由を考えれば、彼は基本的にテレビタレントだったという事実に行き着くからだ。

彼の持ち番組は、アプレンティスというリアリティ番組。なかなかの高視聴率を稼ぐ番組で、Wikipediaによればシーズン1は2000万人以上、最も低調に終わったシーズン10でも約500万人の視聴者がいたとのこと。やはりトランプが出演する類似番組のセレブリティ・アプレンティスもシーズン1では1100万人、その後もコンスタントに700〜900万人の視聴者数を稼いでいる。これらの番組の視聴者が400万人のTwitterフォロワーを構成していたわけだ。

トランプの役どころは、「取引の才能に長けた億万長者」。重要なことは、バラエティ番組ではその肩書が本当かどうかは重要視されないということ。事実であろうがなかろうが、番組の中でそういう役回りを果たせればいい。これは日本のバラエティ番組を見れば容易に想像がつく。知識人の肩書が正しいかどうかなんて、視聴者にとってはどうでもいい。おもしろければそれでいいのだし、作る側だって視聴者がそういうものだと心得ている。だが、不思議なことに、視聴者は出演者の役回りがその人の真の姿だといつの間にか思い込む。映画ファンが高倉健を無口で不器用な男にちがいないと思うようなものだ。だから、テレビ視聴者の多くにとっては、トランプはまさに「有能なビジネスマン」だ。

 

選挙中、不思議に思うことが多かった。トランプ批判の言説はどれも非常に具体的で、彼がどれほどのウソをつき、彼がどれほど不誠実であるのかをひとつひとつ証拠をあげて解き明かす。批判するのは当然反トランプ陣営だからそれが一方的であるのはともかくとして、それに対するトランプ支持者の対応が、まるで雲をつかむようなものだったということがどうにも解せなかった。具体性は一切なく、ただ、「アイツは本物だ」式の言説でしかない。「マスコミはそう言うかもしれないけど、トランプは才能があるんだから」とか。あれほど事細かに数多くの欠陥を指摘されていて、それでいて「本物だ」「才能がある」と思える心理がわからなかった。

けれど、それがテレビの力だと思えば、振り返って納得できる。高倉健が実はおしゃべりで、冗談好きな人だと言われたって、映画のなかの健さんだけを見てきたひとには理解できない。「それはそうなのかもしれないなあ」と思っても、「やっぱりあのひとは寡黙な男なんだろうなあ」って、ぜんぜん逆のことを考える。繰り返し映像で見てきた事実と活字で見た情報とでは、どうしても映像の情報のほうが上を行く。だから、「マスコミはウソばっかり言っている」「真実を知っているのは俺達だ」という根拠のない確信が強まっていく。

 

トランプの得票数は、現時点で60,265,858票だ。Twitterのフォロワー全員がトランプに投票したとしても、得票数の20%を占めるに過ぎない。実際にはTwitterのフォロワーはアメリカ国外にも広がっているから、もっと少ないだろう。1割もないかもしれない。ところが、テレビの視聴者はほぼ全員がアメリカ国民だ。2千万人の全員がトランプファンになったわけでもないだろうが、十年以上もテレビに出続けていれば相当な割合のアメリカ人がテレビを通じてトランプのイメージをつくりあげている。有能なビジネスマン、若くして成功した大富豪のイメージだ。その好意的なイメージは、続々と現れるスキャンダルを打ち消すだけの力をもっている。トランプに投票した人々の多くはテレビを通じてトランプを知ってきた人々のはずだ。

だから、マスコミが叩けば叩くほど、人々は「マスコミはウソをついている」と思う。もちろん、全員が騙されるわけではない。テレビを見ない人々は、先入観がないので騙されない。そして、奇妙なことにマスコミの中の人々、メディアの人々は、最近ではもうくだらないテレビなんかみないでソーシャルメディアばっかり注目している。言葉を替えれば、ソーシャルメディアにはそういう人々が満ち溢れている。テレビにどっぷり浸かっているような人々は、たとえTwitterでトランプをフォローしていたとしても、受動的にネットから情報を受け取る人々であって、発信者であることは少ない。だから、メディアの人々は、読み誤る。たとえば、トランプの最もリツイートされたTweetでも30万弱のリツイート数であり、しかもそれは批判のネタとしてヒラリー陣営がリツイートしたものを多く含んでいたと推測される(Clinton and Trump's Most Re-Tweeted Tweets of Election | Mediaite)。結局、ソーシャルメディアを活用していたのは、トランプではなくヒラリー陣営だったわけだ。

私たち日本人も、もともとトランプは知らない(あ、プロレスファンを除く、だね)。全くイメージのないところにあの赤ら顔と破廉恥な発言を見せられたら、「あ、こいつ、ダメじゃん」と思う。そっちの先入観が大きすぎて、テレビで培われたポジティブなイメージがあることを信じられない。そういうことを聞いても、「ふうん、そうなの。なんであんなのがテレビに出られたんだろうね」って思うだけ。

 

 その結果が、今回の大番狂わせだ。そう思えば、全て納得できる。トランプの当選は、日本で言えば古くは青島幸男参議院当選と同じことだ。タレント候補が大量の票を集めるのはごくふつうのこと。そのタレントの属性がお笑いとか時代劇とかなら人々はまだ見誤らなかったのかもしれないが、「有能なビジネスマン」だったから始末がわるかった。最初からタレント候補だと思っていればよかったのかもしれないが、どのニュースもトランプを「大富豪」と紹介していた。彼の属性で大切だったのは、そっちじゃなかったのだ。

結局、テレビが勝利した。それが私の結論だ。ソーシャルメディアなんてのは、オールドメディアであるテレビの前には無力だった。恐るべし、Idiot box!

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(参考)

www.theguardian.com

wedge.ismedia.jp

 

↓この分析よりは、自分の考えのほうが当たってるような気がする。ま、根拠はないが。

www.buzzfeed.com

 

(追記)

↓似たような意見が出てきた。そう、あれはタレント候補だったんだ。

agora-web.jp

 

マイケル・ムーアはさすが。「4年もたない」というのは、私も前に書いたが、全く同感。法律違反で弾劾される以前に、飽きてしまって自分で投げ出すんじゃないかな。

bylines.news.yahoo.co.jp

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(さらに追記)

この記事によると、勝負を決めたのは50歳以上の世代。つまり、テレビとともに生きてきた連中。テレビは衰退しつつあるのかもしれないが、その影響力はまだまだ侮れない。これはきっと、日本でも同じにちがいない。

miyearnzzlabo.com