刑務所に入るのはヒラリーか、トランプか? - どっちもありそうにないが

トランプの公約(?)のひとつは「ヒラリーを刑務所に」だが、おそらくこれは実現しない。トランプが指揮権を発動してさらなる捜査が進んでも、メール問題に関しては現在わかっている以上の問題は出てこない。既に徹底的に調べつくされているわけだから。仮にさらなる問題が出てくるとしたら、それはメール問題とは関係のないことで、おそらくは言いがかりに過ぎない微罪だろう。そして、捜査に関しては指揮権を発動できても、アメリカは三権分立の本家。司法まで動かすことはたとえ大統領でもできない。裁判になれば、弁護士業界出身のヒラリーにはいくらでも勝ち目がある。なによりも、いったん戦いに勝った以上、トランプもトランプファンも、もうヒラリーに興味はないだろう。「ヒラリーを刑務所に」は、しょせん罵り言葉に過ぎない。

その一方で訴訟リスクということでいえば、トランプのほうが大きい。彼がかかわっている訴訟は4,000件以上あるそうだが、そのうちの75件が裁判中で、選挙運動中もトランプ本人が出廷しなければならないことも何度もあったらしい。詳しくはこちら。

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この記事は投票日2週間ほど前のものらしく、いまとなってみれば相当にヒラリー有利のバイアスがかかってはいるものだが、それでも「もしもトランプが大統領になったら」という仮定のもとに書かれているので、その「もしも」が現実になったいま、読み返してみる価値があるだろう。

最も大きな訴訟は、近日中にも公判がある「トランプ大学」を巡るもの。お世辞にもトランプ有利とはいえない事件だ。だが、これでトランプが刑務所行きになるかといえば、それはおそらくない。民事訴訟だから、負けても賠償金。正確なところは記事からはわからないが、その他にも刑事訴訟は抱えていないらしいので、負け続けても金で解決できる。「金ならある」んでしょう? トランプの最大のウソは実はそこかもしれないのだけれど(実際の資産は本人が公言しているよりも遥かに少ないらしい)、ここからは大統領の給料だって入ってくるし、なんなら4年後の回顧録の印税をカタに借金だってできるだろう。そこに困ることはない。

アメリカは訴訟社会だから、実際、企業経営なんてやってれば、民事訴訟を大量に抱えるのはありそうなこと。そういう意味ではとやかく言うことでもない。ただ、訴訟の内容が、従業員に金を払わなかったとか不当解雇だとか、どっからどこまでいってもブラック企業の親玉だということを示しているのがなんともはや。トランプは雇用を回復するかもしれないが、その内容は相当にブラックになることを覚悟しなければいけないのかもしれないね、アメリカ人は。

トランプは選挙期間中に暴言を吐きまくりだったから、訴訟はこれからもっと増えるだろう。政治的な言論は罪に問われないのがふつうだが、彼の暴言は政治的発言の範疇におさまるものばかりではない。訴訟好きのアメリカ人だから、おおいに法の力を使ってほしいものだ。もっとも、トランプの側も、彼に暴行されたと主張する女性たちを名誉毀損で訴える構えらしい。最も雇用が増えるのは司法関係業界かもしれないな。

 

いずれにせよ、ここから先、アメリカがどれだけ法治国家であるのか、明らかにならざるを得ないだろう。トランプは公約通りに不法移民を規制するつもりらしいが、既にアメリカ永住の地位を得た合法的な移民まで差別することは法が許さない。そして、彼が展開すると公約している公共事業で生まれる雇用はどうせ賃金の安いバラマキ型事業だから、それで潤うのは没落意識だけが高い彼の支持者ではなく、むしろ本当に社会の底辺で苦しんでいる移民たちだろう。皮肉なことに、トランプの政策は彼の支持者ではなく、支持者たちが敵視しているアフリカ系やヒスパニック系の人々を助けることになりそうだ。アメリカが法治国家である限り、その流れを止めることはできない。

そして、それでも白人優先の差別的政策がまかり通るようなら、アメリカの正義なんて口先だけのものだということが明るみに出るだろう。それはそれで、悪いことではない。真実を覆い隠すこと、ウソほど始末におえないものはないのだから。嘘つきは泥棒の始まり。ファクトチェッカーと仲のわるい新大統領をいただくアメリカには、用心したほうがいいな。

 

 

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(余談)

全く関係ないのだけれど、フランス革命から第二帝制までの年表とケネディ当選からトランプ当選までの年表を並べてみるとなかなかに興味深い。民主主義の発展が決して一直線状ではなく、揺り戻しを繰り返しながら発展してきたことがわかる。そう思えば、トランプ以後の未来にも希望がもてるというもの。

画像でいいのがあればと思ったけど、見つからなかった。だれか見やすいものを作ったら、Twitterなんかでリツイートが稼げるかもよ。