雷は巨大な電気 - 命があってよかった

雷に打たれたことがあるひとは、それほど多くないだろう。私はその数少ないひとりだ。もっとも、正確には直撃ではない。そうであれば生きてこんなところでのんびりとブログなんかは書いていないはずだ。おそらく数十メートル離れた場所に落ちた。そして、そのショックを体感した。あれは怖ろしい経験だった。ほんの少し間違っていれば、あっさりと死んでいただろう。そのぐらいの至近距離だった。

あれは私が学生時代、山岳部員として剱岳周辺のいろんなルートを試みていた夏山のことだった。午前中よかった天気が、午後から急速に崩れた。夏山ではよくあることだ。小窓の王と呼ばれる岩峰を回り込んだあたりで雨が降り始め、遠雷が聞こえてきた。2人の後輩(といいながら年齢はほとんど変わらない最も信頼する山仲間)と3人で行動していたのだが、「これはマズいよね」と、這松の間に岩の窪みを見つけ、そこに姿勢を低くして嵐をやり過ごすことにした。

雷は金属に落ちる。だから、金属を身から離すのは基本なのだが、実際には濡れた岩は金属並みに電気を呼ぶので、そこまでの効果はないと言われている。むしろ重要なのは身を低く保つことだ。雷は、少しでも高いところがあればそこに落ちる。だから、地面に這いつくばるようにして身を低くするのがいいと言われている。岩の窪みを探したのは、そういう基本に忠実に従ったからだ。

実際、それがよかったのだと思う。というのは、間もなくして、至近距離に雷が落ち始めた。光ってから3秒、2秒と刻々と近づいてくる。1秒。おそらく岩峰の上に落ちているのだろう。と思った次の瞬間、身体が宙に浮いた。私は後輩が一緒に身をかがめているはずの背後を振り返った。

「なにするねん!」

背中を蹴飛ばされたと思ったのだ。ところが、後輩の顔を見て言葉を飲み込んだ。彼もわけがわからない顔をしている。そして私はようやく悟った。すぐ近くの岩の上に落雷があった。そして、地表面を大電流が流れた。電流は電子の流れだ。電子のクーロン力で、私の身体は宙に浮いた。電気ショックで、私は背中を蹴飛ばされたように感じた。そういうことなのだ。もうひとりの後輩は、その瞬間に光を見たと言っていた。人間と地面の間に火花が飛んだのかもしれない。

 

夏山での雷は初めてではなかった。というよりも、私は「カミナリ男」と異名がつくぐらい、1年生のときから雷には祟られていた。4年生のその夏になるまで、夏山だけでなく、季節を問わず、私が入山すると雷が鳴ると言われたものだ。だが、こんなふうに電気ショックを感じたのはこのときが初めてだった。

地面を流れる雷の余波の電流だけで、あれだけのショックがある。こりゃあ、直撃したら命がないのももっともだと青ざめた。そうはいいながら、いまさら逃げ場もない。雷が通り過ぎるのを祈るような気持ちで待った。あれはほんとに怖かった。

 

以上、オチも何もない、思い出話。