ストロングZEROは危険? - 自分自身の合理的思考こそ疑うべきもの

ストロングZERO、というのは商品名なので、ストロング系アルコール飲料という言い方をしてもいい。あるいは、物質として正確を期すならば、人工甘味料添加カクテルという言い方もあると思う。その害が警告されている。

togetter.com

これに対するブコメ群が、興味深い。

b.hatena.ne.jp

もちろん多様な人々の多様なコメントなので一概にくくってはいけないのだけれど、その多くが、「同じ酒なのになんでストロングゼロだけ目の敵にする? アルコールの摂取量だけなら、他の酒と同じ(あるいは他のほうがもっとひどい)じゃない? 合理的じゃないよね」的なものだというのは、あながち間違っていないと思う。そして、本来は合理的な思考を行うべき医師が、どう見ても非合理的な断罪をするのがおかしいと、そういう論調が目立つものだと思う。

だが、本当にそうなのだろうか? 元Tweetで松本医師は「人工甘味料を加えたエチルアルコール」と言っている。単純にエタノールの量だけを言っているのではなく、「人工甘味料を加えた」と注釈をしていることが重要だ。なぜなら、人工甘味料エタノールの組み合わせが血中アルコール濃度を急上昇させることは、いくらかのエビデンスが存在する既知の事実だからだ。

たとえば、2006年には既に、

www.sciencedirect.com

Artificially Sweetened Versus Regular Mixers Increase Gastric Emptying and Alcohol Absorption - ScienceDirect

として、人工甘味料添加のアルコール飲料が胃での滞留時間が短いためにアルコール吸収が促進されることが報告されている。オレンジ風味のウォッカを、砂糖を使用した場合と人工甘味料を使用した場合に分けて、胃からの排出速度と血中アルコール濃度の変化を測定した研究である。同様の研究は以後も続き、既知の事実であるカフェインとの同時摂取が血中アルコール濃度の急激な増加をもたらす事実との相乗効果を調べた研究が2011年に行われている。つまり、ダイエットコーラ割で急激に酔っ払うという現象を解明しようという研究だ。

Artificial_Sweeteners_Caffeine_and_Alcohol_Intoxication_in_Bar_Patrons

2012年には同様に人工甘味料を使ったソフトドリンク(ダイエットドリンク)でつくったアルコール飲料と砂糖で甘みをつけたアルコール飲料の摂取で呼気のアルコール濃度を比較した研究がある(Artificial Sweeteners Versus Regular Mixers Increase Breath Alcohol Concentrations in Male and Female Social Drinkers)。人工甘味料の添加によって、呼気中のアルコール濃度は有意に増加することが示され、その危険性が警告されている。同様の研究結果は2013年、2015年にも別の研究者によって発表されている。

Comparing the Effects of Alcohol Mixed with Artificially-Sweetened and Carbohydrate Containing Beverages on Breath Alcohol Concentration - ProQuest

 

Effects of artificial sweeteners on breath alcohol concentrations in male and female social drinkers - ScienceDirect

 

2016年には、これらの既知の事実を踏まえ、学生の間でダイエットドリンク系のアルコール飲料がどの程度飲用されているのかを調べ、その危険性を論じた研究が発表されている。

Mixing alcohol with artificially sweetened beverages: Prevalence and correlates among college students - ScienceDirect

 

こういった研究を並べてみると、「アルコール含量が同じだから同じじゃない」という一見合理的で文句のつけようがないような考え方が、いかに現実を反映していないかがわかるだろう。つまり、私たちの常識の中にある「酔っ払うのはアルコールのせい」というあまりにもあたりまえな事実が、「人工甘味料」というものの存在によってそれが影響を受けるという単純な事実を見えなくさせているわけだ。

だから、「そんなのあたりまえ、1+1=2と同じぐらい自明じゃないの」という判断こそ、疑うべきなのだろう。私たちは往々にして、そういう判断をする。それでだいたいはうまくいくのだ。そりゃ、酔っ払うのはアルコールのせいであることはまちがいないのだし、ストロングゼロだろうが日本酒だろうが、飲まなければ酔わないのはそのとおりだ。だが、だからといってその混合比率が酔い方に影響しないとすぐに結論づけていいものだろうか。そこに論理の飛躍があることに、ふつうなら気づかない。

 

私みたいに人工甘味料にもともと疑いの目を向けている人間からすれば、そういうところにケチのつけどころがあることに気がつく。けれど、ふつうは気がつかないだろう。だからこそ、自戒を込めて言いたい。あたりまえに見える自分の合理性ほど危ういものはないのだと。