日米首脳会談を延期すべきたったひとつの理由

来月、日本の首相がアメリカを訪問して日米首脳会談が開かれることになったそうだ。やめといたほうがいい。そう思うのはもちろん私がトランプ大統領に嫌悪感をもっているからというバイアスが強いのだけれど、それを意識的に割り引いても、やめておいたほうがいい。なぜなら、これは日本の国益にとってマイナスになるから。

政治とは、取引ではない。ビジネスではない。私はそう信じている。けれど、この際、私の信じていることは脇に置こう。トランプ大統領は政治を取引(ディール)だと思っているし、日本の政治家のかなりの部分は政治と商売を混同している。彼らがとりあえずの当事者なのだから、彼らの次元で考えてみる。すると、もちろん取引は有利に進めたい。有利に進めるにはタイミングが重要だ。

新政権の発足時には、まだ政策の細部が固まっていない。その時期に会談を行って自分の側の主張を相手に認めさせておく。ふつうなら、これは重要。だから、新政権発足時にはできるだけ早く首脳会談を行う。このあたりまでは常識。だが、相手は常識の通じないトリックスターだ。おまけに、いまは就任直後の強気がトランプにある。まだはじまったばかりで失敗がない。開業したての医者のところに幽霊が現れないという落語のオチ同様、いまのところ失政のマイナス点がない。だから強気で攻めてくるだろう。これがまず、交渉を進めるにあたっては有利ではない。このあたりは、こちらの記事にも同じような論調がある。

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上記記事では「半年ぐらいしてから交渉を」と書いてある。交渉以前に顔をつないでおくことは否定しないどころか、首相に「自分の印象を強く残す」ことを勧めている。これはやめたほうがいい。

なぜなら、ビジネスマンは交渉のしやすいところから切り込んでくるからだ。だから、ゴルフの趣味が合うとかファーストネームで呼び合うとか、うっかりそういう糸口をつけてしまったら、向こうのペースでどんどん食い込んでくる。トランプ大統領のスローガンが「アメリカ第一」である以上、彼が求めてくるのはロクなことではないということが最初っからわかっている。ならば、できるだけ取り付く島をなくしておいたほうがいい。

いや、交渉は、相手の要求を確認して、それに対してこっちの要求をぶつけることだというもっともな考え方もあるだろう。だから、アメリカファーストで要求をぶつけてくるこのタイミングはチャンスでもある。しかし、そのチャンスを最大限に活かすには、向こうの方からアプローチさせなければならない。これは交渉事のポイントだ。お互いの要求があるとき、最初の第一歩を譲歩したほうがだいたいは負けに決まってる。御用聞きのようにこっちからご機嫌を伺いに行ったら、その時点で負けは決まったようなもの。まずは向こうがアプローチしてくるのを待つというのが、こういう強気のセールスマンを相手にしたときの正しいやり方。

 

そして、何よりも重要なことは、トランプ大統領の好調は長く続かないということだ。これは就任前からもうわかりきっている。実際、既に、移民を巡って全国的に司法との対立がはじまっている。

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アメリカは三権分立の本場だ。ここからその本領が発揮される。トランプがクーデターでも起こして憲法を停止しない限り、いつまでも「大統領令」だけに頼った政権運営はできない。

となると、もしもいま交渉を始めたら、1年後には身動きのとれないレームダック状態の政権と命運をともにしなければならなくなる。首相の個人的な趣味ならそれもいいのかもしれないが、日本全体がそれに巻き添えを食うのは御免蒙りたい。

トランプ相場も終わりが見えてきた。終わりが見えてきた相場に参入するのは単なるカモだ。ここで突っ込んではいけない。手控えて、様子を見守るべきだ。交渉は、そこからでも遅くない。

ベストのタイミングは、相手が焦って動き出したとき。だから、いま、安倍首相はワシントンに行くべきじゃない、と思う。むしろメキシコとカナダを訪問したほうが、相手は嫌だと思うよ。相手の嫌がることをするのが勝負の鉄則じゃなかったっけ?

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追記: なんだ、自民党のお偉方も似たようなこと言ってるんじゃないの? 首脳会談をやめろとまでは言ってないけど。

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