海外からの投票はトランプに有利か? - ヤジ馬の予想として

投票日まで1週間を切って、いよいよ罰ゲームのようなアメリカ大統領選挙のわけがわからなくなってきている。世論調査の支持率でいえばほとんど常にトランプが負けているが、どっちかといえば誤差の範囲。民主党と共和党の地盤分析みたいなアメリカ大統領選挙固有の事情を勘案すればヒラリーの圧倒的有利と言われるが、選挙は水物。特に、アメリカ人ってのは民主党と共和党が交互に政権を担当するのを好むところがあるから、「次は共和党に」と、候補者抜きで考える人も多そうだ。まだまだ予断を許さない。

接戦になった選挙といえば、印象に残るのが2000年のゴア対ブッシュの大統領選挙。最後のフロリダをどっちがとるかで勝負が決まるところで、当初1784票差、再集計後に537票差と、まるで町会議員選挙並みの票差で決着している。これは当時フロリダ州が共和党支配であったためのチートだという声もあったのだが、まあそういうことなら民主党支配の州では民主候補が有利なので、あまり根拠のある話でもない。いろいろあったのは、あったんだろうな。私なんかは「なんで?」と思ったのを覚えている。ブッシュがその後に何をやったかは言わずもがな。

 

ともかくも、このときの選挙でブッシュ勝利となった要因のひとつは、海外からの投票だといわれている。合衆国は、選挙人登録さえしていれば海外在住者でも投票ができる。選挙は州単位で行われるため、海外在住者はそれぞれが登録する州での投票を海外から行うことになる。むかし私が東京でFENラジオを聞いていた頃は、よく「one million people overseas」というジングルで投票を呼びかけるメッセージが流れていた。実際には百万人どころか海外在住の有権者は260万人程度にも上るらしい。このあたりの情報は、こちら。

www.cbsnews.com

伝統的に、海外からの投票は共和党有利とされている。これは、海外在住者の多くが軍人であるから、と説明されている。かつてFENで投票を呼びかける放送が行われていたことからわかるように、軍隊内では投票に便宜を図る制度がある。そして、軍人の多くは共和党支持者。当然、海外在住者の投票率が上がれば、それだけ共和党候補に流れる票は多くなる。ちなみに、海外勤務の軍人は150万人ぐらいらしい。

さて、それが今回選挙にあてはまるだろうか。そうだともいえるし、そうでないとも言えるような気がする。私は後者に賭けておこう。賭けにのるひとがいれば、だけれど。

まず、トランプに有利という根拠は、なによりも共和党だからというのがあるが、それ以上に、トランプ支持層である没落しつつある白人たちが、軍人に多いだろうという推測だ。ローマのむかしから、没落していく階層の人々が軍隊に救いを求めるのは世のならわし。仕事がなければ、軍隊に入るのが手っ取り早く食っていく方法になる。ただ、これに対しては、軍隊にはアフリカ系、ヒスパニック系も多いという反論もあるだろう。彼らは概ねトランプに投票しない。事実はどうかといえば、「白人」の中にどれだけ没落系の白人が含まれるのかはわからないが、地理分布的には確かにそういう人々が多い地域が比率的に多く軍人を出している(こちらのグラフ)。民族的な比率は男性と女性ではっきりと分かれている。男性では約70%が白人であるのに、女性では約50%。女性は軍人の16%を占めるに過ぎないから、やはり全体としてはトランプ支持層が多そうだ。

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しかし、私はここで軍人はやはり軍人らしい判断をするのではないかという気がしてならない。軍人にとってのアメリカ大統領は、チーフ・コマンダーだ。最高司令官の方針は自分たちの生活に直結する。そういう目で見たとき、トランプの軍事政策は軍人ウケするだろうか? 支離滅裂に近いその政策は、一方でISIS撲滅みたいな景気のいいことをいいながら、結局はアメリカの海外での軍事展開を縮小する方向であると読み取ることができる。移民反対、国威発揚的な発言は軍人好みかもしれないが、中身は決してそうではない。それよりはむしろ、冷酷だと評されるヒラリーのほうが軍人としては司令官に望ましいのではなかろうか。

さらに、トランプの評価が海外では異常なほどに低いという事実がある。アメリカ人以外で、トランプがまともな候補者だと思っているひとはほとんどいないのではないだろうか。アメリカを離れるということは、そういった視点を獲得するということでもある。

そして、軍人以外に目を転ずれば、もうこれははっきりしている。もともと海外で働くアメリカ人の多くは、トランプ支持層ではないだろう。彼らは海外に出ることすらできない。もちろん海外在住者のなかには共和党支持者も少なくない。だが、外から見ればいくら共和党支持者でもトランプは無理、という気になるのではなかろうか。

そして、これら海外在住者は伝統的に投票率が低かった(というよりほとんど投票しなかった)のだが、インターネット経由でかんたんに投票できるようになって、事情が変わっている。自宅に居ながらにしてクリックで投票できる。となると、投票率は徐々に上がってくるのではないか。

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ということで、最終的には海外からの投票はトランプ有利には働かない、と私は思う。まあ、こういう予想なんて、大統領選挙の結果の予想以上に不確かなものだ。競馬でも見るような気分で大統領選挙を見てしまう。娯楽じゃないんだけどね。

 

さて、どうなるんだろうか。

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