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シアワセの容相

あしたはこっちだ

砂糖玉の効用 - 私たちはプラセボについて十分にわかっているのだろうか?

海外のホメオパシー事情をチラ見した

別に自分自身が使っているわけでもないのでホメオパシーにまつわる議論に深くかかわるつもりはないのだが、ここにあんまり科学を持ち出すのは、ちょっとちがうんじゃないかと感じている。少なくとも、硬い科学だけではどうにもならない部分、強いて言うなら医療社会学的な部分が絡んでくる問題だと思うので、安易な議論は道を踏み外しかねないなあと思っている。

このホメオパシー論争、日本だけで起こっていることではない。というよりも、どうやらイギリスあたりでは日本以上にホメオパシー叩きとそれに対するリアクションが激しいようだ。具体的には、100年ほど前からホメオパシーはイギリスの保健制度の一部に組み込まれていたのだが、徐々に力をなくして21世紀に入る頃には4つの診療機関でのみ公的医療(日本でいえば保険適用にあたる無料の診察・施薬)の対象になっていた。そのうち2つがつい先日ホメオパシーの扱いを取りやめ、それでもロンドンとブリストルの2箇所では相変わらず対象になっている、というのが現状らしい。このあたりはこちらの記事に書いてあることなのだが、

www.businessinsider.com

それによると、イギリス総人口の10%は、ホメオパシーを使っているらしい。で、この記事ははっきりと「効果がないとわかっているものに対して公的な資金をつぎ込むのはおかしい」と、反ホメオパシー的な立場を明らかにしているのだが、ある意味、ホメオパシーがかなり深くイギリスの人々の医療観に食い込んでいることも示している。

海外のホメオパシー事情に関して、「外国では保険の適用にもなるのに!」という擁護派の言説と「そんなものを信じているのは日本人ぐらいなもの」みたいな批判派の言説の両方が存在するのだが、どうやら両方とも、無根拠ではない。実際、徐々に扱いが減ってきているとはいえ未だにイギリスの一部ではホメオパシーは公的医療で扱われている事実はあるのだし、ホメオパシーの利用者も多い。ネットを検索すると、ほとんどは販売業者の宣伝かそれに乗っかった情報でしかないのだが、「ホメオパシーが注目されている」「トレンドだ」という記事がいくらでも出てくる。その一方で、ホメオパシー批判が強烈なことも事実で、イギリスで公的保健機関の扱いが半減したのもそういうところからの抗議が実を結んだ結果だろう。大手メディアの記事は、概ね批判的。物事はどちらから見るかによって見え方が異なる。アメリカなんかはもともと保険加入まで含めて自己責任の国だから、ホメオパシーやりたいひとは勝手にやるだろうし、それに反対するひとも勝手にやるだろう。FDAが認可しないサプリなんていくらでも出回る国だ。検索するとインドあたりの記事もよく引っかかるが、これはイギリスの影響かもしれない。英語圏以外の情報はわからない。いずれにせよ、世界的にも批判が多いことは紛れもない事実。

「正直なプラセボ」とは?

ともかくも、この記事で言いたいのはホメオパシーのことではなく、ホメオパシーについての議論では必ず出てくる「プラセボ効果」について。プラセボは偽薬であり、つまりは何ら薬効成分を含まない基材だけでできた丸薬やカプセル剤のこと。ところが、こういうのを処方しても、治療効果が生まれる。これを「プラセボ効果」と呼ぶ。だから、たとえば新規物質の薬効を調べる場合なんか、「これを投与した場合に改善がみられた」だけでは誰も信じない。必ずプラセボ投与群をコントロールとして比較対象にしなければ、「それはプラセボ効果だろう」と批判されるわけだ。

この「プラセボ効果」、「心理的なものだろう」というのは、古くから言われてきたこと。というよりも、まずそれ以外に考えられない。つまり、「クスリを飲んだ」と思うだけで、「良くなるにちがいない」という信念が生まれる。病は気から、「治るはず」という信念が、実際に病気を治してしまう。それがプラセボ効果だと説明されてきたし、それを疑う根拠は何もない。

ところが、しばらく前、「プラセボ効果は患者がそれを偽薬だと知っていても発生する」という記事をどこかで読んだ。その元記事はどこに行ったのか探しても出てこないのだが、その代わり、最近の類似の研究を取り上げた記事を見つけた。こちら。

www.npr.org

これによれば、腰痛患者に対し、「これは薬効成分などまったくない偽薬ですけど、毎日2回飲んでください」と処方した場合、処方しなかった場合に比べて自覚症状の約30%の改善がみられたというもの。なお、どちらのグループに対しても、通常の痛み止めの処方その他の治療は継続して行っていたらしい。

つまりは、「患者はそれが偽薬だと知っていてもプラセボ効果はある」ということになる。ちなみに、この記事から古い同様の研究へのリンクもたどることができた。おそらくこちらが、私の記憶にあった日本語記事の元ネタの研究を紹介したものなのだろう。

www.npr.org

こちらは、慢性の過敏性腸症候群患者を対象にしたもの。やはり、偽薬だと知っていてもプラセボ効果が生じている。このようなプラセボを「正直なプラセボ」と呼ぶらしい。ちなみに、この過敏性腸症候群も上記の腰痛も、現代医学にとっては扱いにくいやっかいな症状。腰痛に関しては、アメリカの医師は「lower-back loser」と呼んで忌み嫌っている、というようなこともずいぶんむかし、どっかで読んだ記憶がある。

このような研究を見ると、「心理的」の一言で片付けてしまうにはあまりに複雑な作用機序がプラセボ効果にあるのではないかと考えざるを得ない。心理的ではあるが、一筋縄ではない。少なくとも、錯誤による心理効果だけでは説明ができない。

プラセボ効果は、医師への信頼が高いほど大きいというのはよく知られた話。たとえば、

Knowledge and Use of Placebos by House Officers and Nurses | Annals of Internal Medicine | American College of Physicians

これによれば、プラセボ効果が最も高いのは医師を信頼している患者なのに、プラセボを投与される確率が最も高いのは医師に対して文句ばかり言う患者であるというねじれ現象が起こっているそうだが、ともかくも、そういうことに効果が影響されるのはまさに「心理的」。けれど、単純に錯覚しているだけのものではないことは、上記の「効果がないと知っていても効果がある」実験によって確認される。

知らないことがあると知っていれば、もう少し謙虚になれるはず

何が言いたいのかというと、「それはプラセボ、非科学的」と断じる我々は、案外とプラセボについて正確な知識を持っていないのではないか、ということ。よく知らない人間が、それを棚に上げて「非科学的」と他人を罵るのは、あまり感心したことではないだろう。

ひとがひとを批判するとき、私たちはその批判の内容だけではなく、その社会的文脈にも注目すべきだと思う。なぜなら、多くのケンカは、ケンカしたい気持ちが先にあって、理由は後からくる。典型的にはヤクザのイチャモンだ。イチャモンに関しては、その主張の是非を論じるべきではない。イチャモンをつけてきた前後の文脈をこそ探るべきだ。なんだ、結局は、記事の内容は昨日の記事と同じになってしまった。

mazmot.hatenablog.com

繰り言はみっともないな。年をとったんだろうか。やれやれ。

 

 

 

参考:

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nofrills.seesaa.net

interdisciplinary.hateblo.jp

schutsengel.blog.so-net.ne.jp

 

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追記:このサイトも参考になるかも。

manualtherapy.blog91.fc2.com