自分でない何かを求めるのは群れ生活者の宿命かもしれない

Tracy Chapmanというシンガー・ソングライターがいて、Talkin' 'bout a Revolutionとか、やたらと格好のいい曲を歌っているのだけれど、なんと言っても出世作のFast Carがすばらしい。アコースティックのギターリフ(けっこうむずかしい)にのせて最小限のバ…

価値観から逃れられないからこそ、いったんそこを保留にすることが重要になるという話 - 「良い」「悪い」で見えないもの

何の気なしに書いたブコメに星がいっぱいついて慌てることがある。いや、私の意見に何かを感じてくれた人が多いのは単純に嬉しい。一生懸命考えて書いたブコメだと、特に嬉しい。慌てるのは、何の気なしに書いたものが思わず伸びるときだ。詰めて書いてない…

「太陽光発電の拡大は民主党政権のせい」という事実誤認 - 時系列は正しく見よう

私はもう10年ぐらい前になるけれど、非正規雇用の専門職(という言い方がものすごく奇妙なのだけれど)として太陽光発電関係の公的な仕事にごくわずかだけかかわっていたので、いまでも太陽光発電に絡んだニュースには注目している。そして、ブックマークし…

宿題を自明とする教育方法は正しいのだろうか - 「宿題論」はなかなか進まない

「宿題論」という名前のファイルがデスクトップに置いてある。プロパティを確認すると書き始めたのはちょうど2年ほどまえになる。プロットも考え、初めの方を原稿用紙換算で10枚ほど書いたところで、止まっている。書き始め時点ではそういう構想でもなかった…

「はらぺこあおむし」の思い出 - ひとの趣味にはケチをつけないでおこう

絵本作家のエリック・カールさんがしばらく前に亡くなったそうで、「そういえばお世話になったよなあ」と追悼の思いを抱いた。お世話になったといっても、私自身が読者としてお世話になったというニュアンスではない。いま大学生の息子が小さい頃、よく読み…

「ねいろブレンド」レビュー

booth.pm 真音のアルバムが届いた。正直なところ、あまり期待していなかった。というのは、彼らがアップロードしていた予告ティーザーの音があまり良くないと感じていたからだ。いまにして思えば、貧弱なスマホのスピーカで聞いたのがよくなかったのだろう。…

「宿題論」を書く前に - ある生存者バイアス

子どものころから宿題ができない。いまだに宿題となると、とたんに進まなくなる。実は、数年前から書こうとして書けていない文がある。自分にとっての宿題なのだけれど、これがなかなか仕上がらない。忘れたわけではない。デスクトップの目につくところにず…

自尊心がなければやってらんない、という話 - The Greatest Love of All

家庭教師やってると、失敗ばかりでときにはイヤになる。生徒とのセッションは基本的には楽しい時間だ。けれど、それが結果としてどうなのかというと、たとえば「やっぱりここ、まちがえるかよ」とか、「なんでテストの点数が伸びないんだよ」とか、客観的に…

非政治的存在がない世界におけるノンポリ

「生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける」と論じたのは紀貫之だが、そんなこといわれたって、誰もが歌人であるわけはない。私だって三十一文字のうたはつくらない。平安の雅な世は知らず、現代では、歌人のほうが希少種だ。だがもちろん、貫之の意…

中学生用の英語教材自作の話 - 一例報告

英語教育の理想と現実 家庭教師として中学生に英語を教えるのは、けっこう悩ましい。というのも、理想と現実の間の距離があまりにも離れすぎているからだ。 究極の理想としては、言葉はその言葉が使われている場所で生まれ育った人々が覚えるように覚えてい…

ブコメが怖い

ブログを書いている以上、少しでも多くの人に読んでもらいたいのは当然のことだ。読んでほしくなければ非公開設定だってある。そして、はてなブログの場合、ブックマークがつくと露出が高まる。より多くの人に読んでもらえる。だからブックマークがつくのは…

中学受験は、やっぱりおかしい - 基礎教育が目指すものと評価基準の乖離

「成長」というとらえどころのないもの 教育が目指すものは、なにはさておき、人間の成長である。人間の成長を支える介入を教育とよぶ、と定義しても差し支えないほどだ。原理的に、これに異を唱える人は多くないだろう。多数の人が教育を人間の権利とし、そ…

教師が「叱る」ことは原理的に可能なのだろうか?

家庭教師をやっていて、生徒を叱ったことがない。これはなにも私の性格がどうとかいうことじゃなく、原理的に家庭教師は生徒を叱る立場にないからだ。もっとも、生徒の方で勝手に「叱られた」と受け取る場合があるので、これはなんとかしなければいけないと…

息子の動画を非公開にした - 春の大掃除

私の息子は、(親バカが言うのもなんだけれど)才能のある人だ。小学生の頃は落語家で、イベントの出演や施設の慰問にしょっちゅう出かけていた。もちろん小学生のやることだからしょせんは素人芸でしかないのだけれど、それでもあんなふうに何百人もの聴衆…

決定プロセスと実行プロセスを同じ組織に委任してはならない

成長性の高い企業の特徴のひとつは、意思決定の権限が末端に委譲されていることだ。本当かどうかは知らないが、そういう指摘をときどき目にする。スピード感が何より重要な時代にあって、上層部の許可がなければ動けない企業は遅れをとる。現場の動きをいち…

「体操服の下に下着を着ない」は、変態教師の妄言とは、ちょっとちがう

ブラック校則との関係で「体操服の下に肌着を着てはいけない」というルールが少し前からときどき取り上げられる。私は着衣や髪型などに関してとやかくいうのは人間としてどうなのと思うほうだから、こういうルールが学校にあるのはおかしいと思っている。そ…

地頭の良さと受験勉強と

学習塾的な教育が「本質的に」役に立ってるのかという増田(Anonymous diary)記事があった。 anond.hatelabo.jp SAPIXみたいなのって本質的に役に立ってんの? 老子によればおよそこの世の中無用のものはないのであって、そりゃ、この世に存在するものであ…

なぜ「昔話」のオリジナル版をあまり目にしないのか

こんな増田記事を見てブコメを書こうと思ったけど、長くなるのでこちらで。 b.hatena.ne.jp [B!] 昔話はなぜ文語じゃないんだろう 「昔話」と一口に言っても、中身はいろいろある。柳田国男を先駆として各地で採取されてきた「民話」が量からいっても質から…

無敵の人になる方法 - はみ出し者の組織における役割

家庭教師を派遣する小さな会社に雇われて子どもに教え始めてからちょうど8年になる。初めての生徒をもったのが2013年の2月だった。いまでも印象に残っている。あの頃は、私もまるで素人で、生徒にずいぶん迷惑もかけた。私だけじゃない。会社もいまよりもず…

個別の優秀さは全体がクソであることを救わない - 神戸にもいい教師はいる

神戸市北区の小学校教師が「忘れ物」に対して理不尽な対応をして処分を受けたことが報道された。以前のエントリで「忘れ物を叱っても意味はない」みたいなことを書いたばかりということもあって、暗澹たる気持ちになった。 www.asahi.com 消しゴム忘れた児童…

翻訳の思い出

自分名義の翻訳書が何冊かあるので「翻訳者」を名乗ってもバチは当たらないと思うのだけれど、経済的な寄与でいったら私の生涯の収入に翻訳からの印税や翻訳料が占める割合はそれほど多くない。いろいろな半端仕事を継ぎ接ぎしながら生きてきた、そのパッチ…

生きにくさは社会的な文脈で変わる - 「忘れ物」は特異な概念かも

前回、忘れ物のことを書いたら、かなり多くのひとが読んでくれたようだ。特に私同様に忘れ物で苦労したひとからのコメントが多かったのは心強かった。それと同時に、私から見たら筋違いと思われるようなコメントも、それなりにいろいろ考えさせてくれるヒン…

なぜ「忘れ物を叱る」のが無意味なのか

忘れ物をしても叱らない教育をしている学校があるとかいうTogetter記事を見て、「そりゃそうだ」と思ったのだが、そこについてるブコメ群のかなりの部分を占める意見が否定的なのに驚いた。いや、ほんとに驚いた。 b.hatena.ne.jp もちろん、「叱ってもいい…

退屈からの脱出 - なんだかわけのわからない予告として

ラジオが好きなのは、自分の好みの範疇からはみ出して、新しい音楽を聞けるからだ。アルバムを漁ったり(若い頃はレコード屋に入ったらなかなか出てこれなかった)、あるいはいまならYouTubeで検索したりして音楽を聞くと、どうしても自分に馴染みのあるもの…

「手伝い」の概念は変化してきたのか? -  生業と家事のあいだ

「家のことを子どもが手伝うみたいな言い方をするようになったのって、いつ頃ですかね」。古い友だちにコーヒーをご馳走になりながら話していたときのことだ。田舎で百姓をやりながら大工としてそこそこに名前も売れてきたその友人とは、知り合ってもう四半…

待ちぼうけ

1時間余の暇ができたから会って話をしましょうと約束をしていたのに、その人は現れない。場所をまちがえたことに気がついたのは、もう次の予定が入っている直前だった。あわてて連絡をとったけれど、その時点ではもう会えないことがはっきりしてしまっていた…

PCR検査を受けた話

ここ1週間ばかり、ちょっとした騒ぎがあった。発端は高校3年生になる息子の発熱である。 息子は、箱入りで育てたせいか無理のきかない性質があって、フル稼働運転を続けるとどこかでダウンして熱を出す。そういう人だとわかっているので、今回、熱を出したの…

中学受験は、そろそろ根本的に変わったほうがいい

役に立ってない中学受験勉強 中学受験はおよそ害悪だ。私がそう思う理由は単純だ。それが子どもたちの役に立っていないからだ。中学受験制度そのものは、それは何らかの役に立っているのかもしれない。少なくともそれを実施する私立中学校にとっては、メリッ…

雷は巨大な電気 - 命があってよかった

雷に打たれたことがあるひとは、それほど多くないだろう。私はその数少ないひとりだ。もっとも、正確には直撃ではない。そうであれば生きてこんなところでのんびりとブログなんかは書いていないはずだ。おそらく数十メートル離れた場所に落ちた。そして、そ…

子どもの世界は安全になったのか - 子どもの目に映る世界

昭和の子どもの世界は非常に危険だった。直接的な危害だけでも、私の記憶の中には「あれは本当に危なかった」というのがいくつかある。たとえば、当時、宅地化が進みつつあった私の家の近所には、(子どもの目からみて)広大なジャンクヤードがあった。廃物…